明暗分けた2枚のレッドカード

ワールドカップはいよいよ8強対決(準々決勝)が始まった。

現地時間7月2日に行われた2試合で、それぞれ1枚のレッドカードが出された。だが、その招いた結果が真逆であったことは、とても興味深い。

最初の試合、オランダ対ブラジルの試合でレッドカードを出したのは日本人主審の西村さんだ。
ブラジルが逆転を許したあとの後半28分のフェリペ・メロのプレー。倒されてボールを抱えこんでいたオランダ11番ロッベンからボールを無理に奪おうと相手を踏みつけた。西村主審はこれを見逃さず、当然の一発退場*1だ。
実は、このプレーには伏線がある。ブラジルの1点リードで始まった後半8分、同点のオウンゴールを招いたのはメロだった。その後の攻防の中でもメロはロッベンとのマッチアップが続く中、後半23分にオランダの逆転を許し相当にいらだっていた。そこへ出たのがロッベンの倒されてのオーバーアクションとボールを抱え込むプレー。まんまとハマってしまったと言う感じだ。
メロの退場で10人になったブラジルは、思うようにオランダの攻撃をしのぎながら攻めることはできず、とうとう追いつく事ができず、2大会連続で準々決勝敗退という苦い結果となってしまった。
相手を踏みつけてレッドカードと言えば、98年フランス大会でのジダンの退場を思い起こすが、あれは予選リーグでの出来事だった。負ければ後がない決勝トーナメントで、もう少し冷静になれなかったのだろうか。今回のブラジル代表は鬼軍曹ドゥンガの下、あまりファンタジーあふれるプレーは見られなかった。組織的な守備は強力だったが、予選リーグでは相手にリードを許す場面は一度もなかったし、想定外の状況に若さが出たのかもしれない。だが、メロの不用意なプレーが払った代償はあまりにも大きい。

一方のウルグアイ対ガーナの試合では、ルイス・スアレスのレッドカードが逆にチームを救った。1:1の同点で試合は延長戦に持ち込まれた。そして迎えた延長ロスタイム、ガーナの決定的なシュートをウルグアイのFWルイス・スアレスが、なんと手でゴール阻止。退場、そしてPK献上。しかし、このPKをガーナのギャンがはずしてしまい、試合はPK戦での決着へ。このPK戦を制したウルグアイが準決勝進出という結果となった。
延長ロスタイムでの失点は、試合を決定づけてしまう。レッドカードをもらいPKを献上しても、その時点での失点はなく味方に可能性が残される。もちろん、フェアプレーの精神からはレッドカードになるプレーを(私も審判員の端くれとして)決して賞賛することはできないが、徳俵に足がかかった状態の味方チームをルイス・スアレスの咄嗟のマリーシアが救ったことは間違いない。

ブラジルとウルグアイ、同じ南米のチームでありながら、もらったレッドカードの意味はあまりにも違いすぎた。よく「サッカーは審判の判定も含めてサッカーなのだ」と言われるが、強いチームというのは単に技術や運動能力に優れた選手を多く擁するだけでなく、組織力や精神力、さらにはルールや審判の判定を味方につけるある種のずる賢さも持ち合わせている。

本当にサッカーそしてワールドカップは面白い!

【追記】
メロは判定に不満そうだが、あのレッドカードは後方からの危険なタックルなどプレー中に起きた「著しく不正なファウル」ではなく、相手を殴るなどと同様の「乱暴な行為」によるものだ。どれだけ激しく相手に行ったかが問題なのではなく、相手を踏みつける行為そのものが退場に相当する乱暴な行為とみなされている。この発言を見ても、メロとスアレスのルール理解の差は歴然としている。メロはルール理解が足りずに、迂闊にレッドカードをもらい、スアレスは退場覚悟の上でチームを救った。